咲いているだけで、誰かの心を救う風景がある
咲いているだけで、誰かの心を救っている花がある。
何かを語るでもなく、主張するでもなく、
ただそこに静かに咲いているだけなのに、
ふと足を止めて、心がほどけるような瞬間がある。
季節ごとに咲く、通勤途中の花たちから得たものは？
通勤の途中にいつも通る道があった。
その道沿いの庭木が、季節ごとに花を咲かせていた。
目立つわけではない、控えめな花たちだったけれど、
毎年、変わらず咲いてくれるその姿に、私は何度も癒された。
仕事がつらい日もあった。
うまくいかないことが重なった朝もあった。
でも花は、そんな私の事情など関係なく、
その季節になると静かに咲いていた。
何があっても、ぶれずに咲き続けるその姿に、私はいつも背中を押されていた。
実家の花が、誰かの希望になっていた
思い出すのは、実家の玄関先。
亡き祖父が植えたガザニアや紫蘭が、毎年かわいく咲いていた。
父はあまり好みではなかったようで、
「もう抜いてしまおうか」とこぼしたことがあった。
すると、向かいのおばさんが笑って言った。
「私ね、あれが咲くのを毎年楽しみにしてるのよ」って。
自分たちにとっては、なんとなくそこにあるだけの花でも、
誰かにとっては、それが小さな希望になっている。
そんなふうに、自分が思ってもみなかった形で、
誰かの心に残って、役立っているものが、この世界にはあるのだと知った。
「借りている景色」から、心も借りているのかもしれない
日本には「借景（しゃっけい）」という美意識がある。
庭づくりにおいて、自分の敷地内だけで完結させず、
外の山や林、隣家の木々さえも、
あえて“借りる”ことで景色の一部にしてしまう考え方だ。
それは、物理的な境界を超えて
「目に映るものを心に取り込む」柔軟さでもある。
自分のものでなくても、そこにあるものが
知らず知らずのうちに、自分の心を支えてくれている。
たとえば通勤途中の誰かの庭の花。
街角の木陰や、道端に咲く雑草のような小さな草花。
それらは私たちが「世話をしているわけでも、所有しているわけでもない」。
でも、疲れているときにふと目に入って、
心がやわらかくなることがある。
そんなとき私たちは、きっと
「景色」だけでなく、「安心」や「癒し」も、
そっと心に借りているのかもしれない。
その感覚は、他者の存在にも似ている。
言葉を交わさなくても、会ったことがなくても、
ただそこにいる誰かが、なぜか自分を支えてくれる気がする──
それもまた、心の「借景」なのかもしれない。
あなたも、ただ「いる」だけで、意味になっている
意図しなくても。
努力しなくても。
ただそこに「いる」だけで、
誰かの心の支えになっていることがある。
言葉をかけなくても。
行動で示せなくても。
あなたの存在そのものが、
誰かにとって、大切な意味になっていることがある。
きっと、あなたも。
気づかないうちに、誰かの小さな春になっている。